AI特許取得の世界では何が起きているのか?
この記事では、世界的なAI特許付与の分布、5大特許庁におけるAI特許出願および大手AI企業を含む、過去5年間のAI特許取得活動と動向について見ていきます。
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トーマス・ブリック | Connect on LinkedIn | tbrick@hlk-ip.com
AI特許取得の世界では何が起きているのか?
この記事では、世界的なAI特許付与の分布、5大特許庁におけるAI特許出願および大手AI企業を含む、過去5年間のAI特許取得活動と動向について見ていきます。
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最近はニュースをさほど丹念に調べなくても、AI関連の記事に出くわします。10月初めにスウェーデン王立科学アカデミーは、ジョン・ホップフィールドとトロント大学のジェフリー・ヒントンに2024年ノーベル物理学賞を授与し、人工ニューラルネットワークの機械学習における彼らの基礎研究を称えると共に、タンパク質の構造予測が可能なDeepMindのAIモデルAlphaFoldの開発を主導した、デミス・ハサビスとジョン・ジャンパーに(デイヴィッド・ベイカーと共に)2024年ノーベル化学賞を授与しました。政府のAI法案は、いま持ち切りの話題です。OpenAIはこの技術領域にあまねく存在感を示しています。さらに現在の生成AIの実践に対する著作権闘争の新たな火蓋も次々と切られています。
検索文字列“Artificial Intelligence”のGoogle Trendsデータは、AIへの世界的関心が依然として増加中であることを示しています。
出典:Google Trends
その一方で、AI特許取得の世界では何が起きているのでしょうか? 以下では、過去5年間にわたるAI特許取得活動を見ていきましょう。
これは難しい質問です。特許出願をAI特許出願として分類するための、意見の一致した簡単な方法はありません。何らかのAI技術を極めて付随的に利用するイノベーションであれば――多くがそうですが――「AI特許出願」なのでしょうか? 分かりやすくするため、特許庁により以下のCPCグループの少なくとも1つに分類された出願が、AI特許出願だとしましょう。
G06N 3/00 生物学的モデルに基づく計算装置
G06N 5/00 知識ベースモデルを利用する計算装置
G06N 20/00 機械学習
もちろん、このアプローチは完璧を目指すものではなく、上記に分類されなかったAIに係る出願が見過ごされる可能性もあります。
下記のグラフは、2019年1月以降に5大特許庁(EPO、USPTO、CN、KR、JP)により公開されたAI特許出願の絶対数を示しています。このデータ(および後の全グラフのデータ)は、2024年9月20日まで正確です。つまり、2024年のデータは不完全です。
公開されたAI特許出願[5大特許庁;2024年のデータは不完全]
出典:Lens(https://www.lens.org/)
この期間中、5大特許庁におけるAI特許出願公報は、合計で480,000件を超えています。
おそらく意外ではないでしょうが、中国が先頭を走っており、2022年のピーク時には70,000件をわずかに超えるAI特許出願が公開されました。この数字は2019年の公開と比べて300%増えています。
EPOでは、2019年1月1日以降に公開されたAI特許出願は合計で26,000件を超えており、昨年(2023年)に公開されたAI特許出願は5,756件でした。
しかし、これらの数字をどのような方法で全ての特許出願公報と比較するのでしょうか?
公報全体に占めるAI特許出願公報の割合(%)[5大特許庁;2024年のデータは不完全]
出典:Lens(https://www.lens.org/)
上記の数字は、5大特許庁の全ての特許出願公報の合計数と比較した、同じく5大特許庁により公開されたAI特許出願の割合を示しています。
2019年1月以降、(全てのCPC分類において)公開された特許出願は15,000,000件を少し上回っていました。
注目すべき点として、昨年まではAI特許出願公報の割合に関して米国が優位に立っており、全ての特許出願公報の約5%がAI関連でした。しかし、2024年末までに韓国が米国を追い抜く勢いです。
おそらく意外でしょうが、日本は――ソフトウェアとビジネス方法の特許取得では勢いがあるにもかかわらず――一貫してAI特許出願公報は一番少ない状態です(絶対数と、ここに示された相対数の双方に関して)。
EPOでは、AI特許出願公報の相対数が着実に伸び、2021年に約3%に達してからは、この割合が続いています。
公開された特許出願データは基本的に、付与された特許データよりも、技術活動に関して多くの情報を与えてくれます。なぜなら様々なファクターには国内/広域特許要件が含まれており、出願人の特許取得の戦略上、特許付与を目指すつもりの出願よりも多くの出願が提出されるためです。それにもかかわらず、世界的なAI特許付与の分布を見るのは興味深いことです。
中国のAI業界は巨大です。国務院は、Baidu、TencentおよびAlibabaなど、中国を本拠とする企業15社を含む「国内AIチーム」のリストを有しています。各企業は、顔認識、ソフトウェア/ハードウェアおよび言語認識など、中国において指定されたAI部門の開発を主導するよう期待されています。それゆえ中国のAI特許付与件数が非常に高いこともさほど意外ではありません。中国は2021年に急激に米国を追い越し、昨年は35,000件のAI特許付与で首位に立ちました(昨年は中国のAI特許出願公報が67,000件だったことを思い出してください)。
特許付与されたAI特許出願[5大特許庁;2024年のデータは不完全]
出典:Lens(https://www.lens.org/)
おそらくCIIに対する比較的厳格な姿勢を反映して、EPOは5大特許庁の中で最もAI特許の付与が少ない状態が続いており、昨年のAI特許付与はわずか1,380件でした。
再び、これらの数字を全ての特許付与と比較する方法を見てみましょう。
全ての特許付与に占めるAI特許付与の割合(%)[5大特許庁;2024年のデータは不完全]
出典:Lens(https://www.lens.org/)
中国のAI特許付与の絶対数が高いにもかかわらず、AI特許付与の相対数に関しては、依然として米国が首位に立っており、2023年は米国の全ての特許付与の5.3%がAI特許でした。
比較すると、同じ2023年における欧州のAI特許は、全ての欧州特許付与のわずか1.3%でした。
このデータはおそらく、欧州でソフトウェア特許を取得するのは米国よりも難しいという一般通念を裏づけていると思われます。
この表は、EPOにより公開された特許出願数に関して、最も積極的な出願人を示しています。
左側の緑色の表は、出願の主題に関係なく、最も積極的な出願人を示しています。2019年1月から現在までに公開された出願のうち、Huaweiが21,000件を超えて首位に立っているのが分かるでしょう。
右側の灰色の表は、AI特許出願に関して最も積極的な出願人を示しています。AI特許取得の領域では、Samsungが最も積極的であり、公開されたAI出願は1,000件を超えています。
太字で示されたのは、双方の表に出てくる出願人です。上位5位のAI欧州出願人(右側)は、上位10位の全体的欧州出願人(左側)にも出てきます。
この表は、いずれかの5大特許庁により公開された特許出願数に関して、最も積極的な出願人を示しています。
欧州で最も積極的なAI出願人であるSamsungは、5大特許庁におけるAIおよび全ての主題領域においても、最も積極的な出願人です。
欧州において最も積極的なAI出願人の一部が、出願全体でも最も積極的な出願人であったように、世界的に上位3位のAI出願人は、出願全体でも最も積極的な出願人の中に入っています。
しかし、これらの出願人はどの国から出願しているのでしょうか?
EPO出願公報だけを見ると(5大特許庁は同じ方法で出願人の国籍データを把握していないように思われるため)、欧州AI出願公報の最大の出願人の国籍は米国です。
出典:Lens (https://www.lens.org/)
上記に示すのは、2019年から現在までの上位5位のEPO AI出願人の国籍、即ち米国、ドイツ、中国、日本および韓国です(興味深いことに5大特許庁と見事に一致しています)。
欧州AI特許出願公報の絶対数が区分けされています。例えば2022年は、総計で5,700件をわずかに下回る欧州AI出願公報のうち、上記5か国のいずれかから出願された件数は4,000件をわずかに上回っていました。2022年に米国から出願された欧州出願公報は2,225件でした。
下記のグラフは、上記5か国の出願人による欧州AI特許出願公報の件数を、全ての欧州AI特許出願公報の割合(%)で示しています。
出典:Lens (https://www.lens.org/)
興味深いことに、上位5か国の動きに大きな変化はないようです。つまり、米国は一貫して欧州AI出願公報の約37%を占めており、上位5か国は安定して欧州AI出願公報の70%超を占めています。
この状況は、先に示したCNIPAにおけるAI特許出願公報の飛躍的な増加に反しています。CNIPAにおける大半の出願人が中国人だと仮定すれば、おそらく中国人のAI出願人は、母国でのAI活動の増加に合わせて自身の欧州出願戦略を変化させなかったようです。
AI特許出願公報の件数は世界中で急速に伸びており、当事務所はますます多くのAI出願が特許付与へ向かって行く場面に立ち会っています。EPOでは、世界中から多くの特許取得活動が繰り広げられています。
近い将来、AIへの関心が消えてなくなるとは思えません。デジタル技術が絶えず発展していく中で、才覚のあるイノベーターたちが新しいAIモデルを生み出し、既存のAIツールを有効に活用する斬新な方法を見出しています。AIが私たちをどこへ連れて行くのか、次の展開が楽しみです。
この記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。この記事または他の主題に関して助言が必要な場合は、hlk@hlk-ip.comまたは担当のHLKアドバイザーまでご連絡ください。