統一特許裁判所と単一特許の運用開始はもうすぐ ― 特許権者が今やるべき対策

1.オプトアウトの計画を立てる

欧州特許と特許出願の所有者に対して当事務所が推奨するのは、ポートフォリオを見直し、統一特許裁判所の管轄からオプトアウトしたい特許と出願(ある場合)を特定することです。

オプトアウトすべき案件を特定した後は、オプトアウト申請に真正な所有者の名前を記載できるよう、所有権を再確認することをお勧めします。

特許が当初の出願人に付与された場合など、多くの案件では、特許または出願の所有権は明確でしょう。しかし、買収や合併など、欧州特許または特許出願が関与する取引が行われた場合や、特許が持株会社により所有されている場合には、真正な法的所有者の判断が複雑になりかねません。

オプトアウト申請では、欧州特許または出願の真正な法的所有者を特定し記載することが極めて重要になります。UPCは、オプトアウト申請時における所有者情報が正確かどうかをチェックしません。オプトアウト申請に間違った所有者の名前が記載されている場合、その申請は無効となるため(たとえそのオプトアウトが登録されたように見受けられても)、当該特許はUPCによる一括取消に対して脆弱な状態のままです。このことは、当該特許に対する一括取消訴訟がUPCに提起されて初めて判明するため、その時点ではオプトアウト申請を訂正するには遅すぎるのです。

オプトアウトすべき特許/出願を特定した後は、オプトアウトサービスの提供者にオプトアウト手続を委託することができます。

当事務所のオプトアウトサービスに関する詳細は、当事務所へお問い合わせください。

2.単一特許有効化の準備をする

対策1(上記)と並行して、当事務所が推奨するのは、出願人が係属中の欧州特許出願を再検討し、単一特許が利用可能になった際、どの出願をUPとして有効化したいか(ある場合)を決定することです。

単一特許を希望する出願が特許付与段階に近づいている場合、有効化の選択肢として単一特許が利用可能になるまで、特許付与を遅らせる措置が必要になるかもしれません。

遅延を申請する条件として、特許許可通知(EPC規則71(3)に基づく通知)が発行されており、出願人が特許付与予定のテキストをまだ承認していないことが挙げられています。

特許付与予定のテキストを承認する期限が、ドイツ批准の予定日より前である場合には、特許付与を遅らせる他の措置を検討する必要があるでしょう。そのような措置にご関心がある場合は、いつものHLK担当者へご連絡ください。

3.手持ちの契約がUP/UPC時代の目的に合致していることを確認する

多くのIP契約は、UPCとUP制度を考慮せずに起草されているため、有効化戦略の選択(UP vs従来の国内有効化)、UPCの管轄からのオプトアウト、および訴訟法廷の選択(国内裁判所vs UPC)などの考慮すべき事項について、言及していないまたは不明瞭な場合もあるでしょう。

知的財産が関与するあらゆる契約(共同開発契約やライセンスなど)を特許権者が見直し、UP/UPC時代の目的に確実に適合させることを、当事務所は推奨します。必要であれば、特許有効化戦略、オプトアウトおよび訴訟戦略などの問題に関して、各当事者の権利と責任を明確にするため、これらの契約を書き直すべきです。とりわけ独占的ライセンシーが特許/出願の手続遂行に何らかの影響力を持っている場合は、そうすべきです。

4.UPC訴訟に備える

UPCでの訴訟は、重圧がかかる上に、厳しい時間的制約の中で進められます。手続上、詳細な訴答書面が極めて好意的に受け取られ、UPCへの申立の提出から1年以内に侵害と有効性に関する最終口頭審理を開催可能にすることを目指しています。例えば、一括取消訴訟においてUPCの管轄に異議を唱える先決的抗弁を提出する期限は、申立の送達から1か月です。

多くの国内裁判所制度とは異なり、UPCにおける訴答書面の送達はUPC登録局により行われ、UPCに登録された代理人が不在の場合には、EPOまたは国内特許庁に登録された代理人に訴答書面が送達される可能性があります。

明らかにこれにより、特許権者が申立を受領するまでに遅延が生じるでしょう。とりわけUPCからの送達を予期しておらず、迅速に送達に対応できない代理人に申立が送達された場合、このような遅延が生じます。

そのため、欧州特許権者がオプトアウトしなかったあらゆる欧州特許について、UPCにおける代理人を任命することにより、このような特許に対する申立を受領するまでの遅延を最小限にし、UPCの厳しい時間的制約の範囲内で申立に応答できる時間を最大限にすることを、当事務所としては提案します。

UPCは、欧州における特許訴訟の戦略上の新しい選択肢を数多く生み出すことになります。個々の事件の状況に合わせて訴訟戦略を練り上げる必要がある一方で、潜在的な訴訟当事者自身が将来の訴訟戦略を視野に入れて、UPCとその功罪両面を見極めておくことをお勧めします。より詳細な情報については、いつものHLK担当者または当事務所の訴訟チームのメンバーにお問い合わせください。