UPCの広範な管轄権

By Greg Ward, パートナー

この記事では、欧州特許訴訟代理人(UPC代理人)のグレッグ・ウォードが、UPC管轄権の範囲にまつわる最近の一連の判決について解説し、これらの判決が同裁判所の利用者にとって何を意味するのかについて考えます。

連絡先

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統一特許裁判所(UPC)は、統一特許裁判所協定を批准した18のEU加盟国における紛争について管轄権を有する、超国家的な裁判所です。ただし、英国やスペインを含む、いくつかの重要な欧州経済圏は、UPC制度に参加していません。よって、UPCにはこれらの国に対する管轄権はないと考えてもおかしくないのですが、2025年の最初の4か月間に出された一連の判決を見ると、少なくとも一部のUPC地方部は、UPC制度に参加していない国がUPCの管轄権の障壁になるとは必ずしも考えておらず、EU司法裁判所(CJEU)もこれに同意しているように思われるのです。

判決の要約

最初の判決が出されたのはFujifilm v Kodak事件で、デュッセルドルフ地方部により1月28日に言い渡されました。この判決の対象となる特許は、ドイツと英国の双方で付与された有効な平版印刷板に係るEP3594009(EP’009)でした。Fujifilmは、全てドイツを拠点とするKodack企業グループを相手取って侵害訴訟を起こし、Kodakによるドイツと英国内での被疑侵害品の製造または販売を阻止しようとしました。KodakはEP’009の取消を求める反訴を提起すると共に、ドイツはUPC参加国であるが、英国は参加国ではないため、EP’009の指定国である英国での侵害について判断する管轄権はUPCにはないと主張しました。

この判決の大半は、取消の技術的争点に集中していました。デュッセルドルフ地方部はEP’009を無効と認定し、ゆえにドイツに関して当該特許の取消を命じました(しかし英国については、EP’009に基づく英国特許を取り消す管轄権は同地方部にはないと判断しています)。それとは別に、デュッセルドルフ地方部は、ドイツと英国における侵害問題を審理する管轄権が同地方部にあるかどうかについて検討しました。(改正された)ブリュッセル規則(No 1215/2012)に基づき、同地方部は管轄権があると判断しました。ここでブリュッセル規則を適用すると、UPCの参加国に住所を有する者は、その国籍にかかわらず、当該法域の裁判所に訴訟を起こされることになると規定されています。UPCはさらに踏み込んで、次のように判示しました。

「被告がUPC参加国(本件ではドイツ)に住所を有する場合、統一特許裁判所は係争特許の英国部分に関する侵害訴訟を審理する管轄権を有する。これは、被告が係争特許のドイツ部分に関して取消を求める反訴を提起した場合にも当てはまる。その場合でも、英国に関する侵害訴訟について、統一特許裁判所は当該事件を審理する管轄権を有する」。

したがって、特許権者は自己の全ての侵害請求をUPCに提起して、単一の法廷で包括的な救済を獲得することが可能です。

少しUPCから話が逸れますが、関連性のあるCJEU判決が、2月25日にBSH v Electrolux事件で言い渡されました。このCJEU判決は、デュッセルドルフ地方部の判決を本質的に支持するものでした。要約すると、被告が住所を有するEU加盟国の裁判所(UPCはEU加盟国の裁判所と実質的に同等とみなされます)は、第三国(非EU領域)に関する侵害請求を審理し、国境を越えた救済を与える管轄権を有すると、CJEUは認定しました。ただし、EU加盟国の裁判所/UPCは第三国に関する有効性について決定できるものの、その決定は「当該第三国における特許の存在または内容には影響を及ぼさず、当該第三国の国内登録簿に対するいかなる変更も生じない」のです。つまりその決定は、当該事件の当事者のみに適用され、第三国の国内特許登録簿における特許の状態を変えることはありません。

UPCに話を戻すと、Mul-T-Lock v IMC Creations事件において、パリ地方部の命令が3月21日に言い渡されました。この命令は、先のデュッセルドルフ地方部およびCJEUの判決と一致しており、双方の判決がMul-T-Lock v IMC Creations命令に引用されていました。この命令の対象となった特許は、ロック機構に係るEP4153830(EP’830)で、具体的にはUPCの管轄外であるスペイン、英国およびスイスを含む、複数の法域で有効でした。パリ地方部は、スペインと英国に関する侵害を審理する管轄権があると認定し、その根拠として、デュッセルドルフ地方部の根拠と同じく、これらの国に関する被告がフランス企業のMul-T-Lock Franceであることを挙げています。また、パリ地方部は、デュッセルドルフ地方部よりもさらに踏み込んで、スイス特許に関する侵害についても決定することが可能であり、スイスに関する被告は、EU加盟国ではなく、UPC制度にも参加していないスイスに拠点を置くMul-T-Lock Suisseであると認定しました。このようなパリ地方部による管轄権の拡大の正当事由として、「中心的な」被告であるMul-T-Lock FranceがEU加盟国に住所を有していること、さらに特許権者は国によって異なる判決のリスクを避けるため、単一の法廷で包括的な判決を得られるようにすべきであることが示されました。

最後に、4月8日に言い渡されたDainese v Alpinestars命令において、ミラノ地方部は、同地方部が加盟国の裁判所とみなされるべきであり、それゆえ「イタリアに住所を有する被告に対する欧州特許関連の侵害問題について裁定する普遍的管轄権」を有しており、この管轄権はUPC非参加国、本件ではスペインで有効化された欧州特許関連の侵害問題」にも拡大されると認定しました。係争特許はEP4072364(EP’364)とEP3498117(EP’117)であり、どちらも防護服に係る特許です。このミラノ地方部の決定は、上述したデュッセルドルフ地方部およびパリ地方部の決定と一致しています。要約すると、ミラノ地方部は次のように述べました。

UPCが居所の裁判所である場合、UPCは国内裁判所と同様に、UPC非参加国で有効化された欧州特許関連の侵害問題について裁定する権限を有している」、さらにUPCは(国内裁判所と同様に)、その被告が抗弁として当該特許の無効を主張しているというだけで、この管轄権を失うことはない」。

潜在的影響の分析

上記の判決から分かるように、UPC地方部が自らの管轄権を極めて広範囲に解釈する傾向が高まっており、その正当事由としては、そうすることで確実性が早期にもたらされ、相反する判決を避けられるというのが一般的です。

付与された欧州特許を権利行使しようとする人たちにとって、現在の18のUPC参加国だけでなく、他の(少なくとも)欧州諸国にまで拡大される、このように広範な管轄権を有するUPCは、より一層利用すべき魅力的な裁判所になっています。UPCは欧州における特許侵害訴訟のワンストップショップとして機能する裁判所を目指して、更なる一歩を踏み出したと言えるでしょう。

逆に言うと、UPCを批准した国を拠点とする潜在的なUPC被告にとっては、スイスや英国のようなUPCを批准していない国で営業している場合でも、UPCの広範な管轄権を十分に回避することはできません。したがって、侵害予防調査をより強化し、(適切な場合は)プロテクティブ・レターや無効訴訟などの先制措置を講じることが賢明と思われます。

支援が必要な場合は

統一特許裁判所や単一特許の問題に関する最近の進展については、当事務所の専門家たちによる洞察に満ちた記事や分析が掲載された、UPC&UP最新情報ページをご覧ください。

この記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。この記事または統一特許裁判所に関連した他の話題について助言が必要な場合は、upc@hlk-ip.comまたは担当のHLKアドバイザーまでご連絡ください。