UPCについて調査した際、多くの知的財産(知財)実務家にとって、統一特許裁判所(UPC)での訴訟を欧州特許庁(EPO)の異議申立手続と比較する方法を理解すること、そしてUPCの手続と要件について理解を深めることが、2つの最優先課題として確認されました。
知財実務家の最優先課題は、当事務所が9月に主催したUPCに関するウェビナー中に行った、企業内チームと弁護士事務所から参加した120名の知財実務家を対象にした世論調査の結果に示されていました。当事務所のUPC専門家が、UPC訴訟の準備のための実用的助言に加え、これまでの同裁判所判決に見られる欧州特許有効性の基本原則のうちの2つに対するUPCのアプローチについて重要な洞察を共有した後、ウェビナー参加者に対し、次の重要なステップは何かについて調査が行われました。
多くの知財実務家は双方の優先課題の最前線で理解を深めながらも、まだUPCについて学ぶべきことがたくさんあると感じていることが明らかになっています。UPCは業務開始以来、500件の事件を受理しており[1]、20,000件を超える単一特許が登録されている[2]にもかかわらず、多くの組織がUPCとその仕組みをまだ直接経験していないことは明白です。HLKのUPC専門家によれば、有効性問題に関して、当然のことながら企業はEPOが採用するアプローチの方にはるかに精通していると思われます。
知財訴訟スペシャリストでパートナーのジェイミー・ローランズは、次のように述べました。
「当事務所は既に相当数の中間判決と一握りの数の終局判決を調べており、統一特許裁判所の判例も増え続けています。これまでのところ、判決は総じて明確で十分に練り上げられており、まったく文句ありません。これは同裁判所への信頼を築く上で有効です」。
「時間の経過と共に、より多くの企業がUPCを利用し、同裁判所における手続と判例の理解がより明確になっていくでしょう。そのとき同裁判所への全面的信頼が高まるはずです」。
戦略的ツールとしてのUPC手続のスピード
この1年で明確になったと当事務所の専門家たちが確信している、UPC制度の2つの特徴があります。第一に、UPCでの事件処理スピード――裁判の申請から12か月――は、EPOへの申立や欧州の多くの国内裁判所での訴訟よりも、はるかに迅速です。第二に、このスピードを戦略的ツールとして利用できるということです。
ジェイミーは次のように説明しました。
「UPCにおける手続のスピードという問題に関しては、両当事者が十分に準備を整えておくことが極めて重要です。これは特に被告にとって重要であり、私の経験上、UPC手続は初期段階に非常に力を入れるため、証拠や重要書類を含めた抗弁や反訴の提出までに3か月しかありません」。
「被告にとって利用可能な全ての時間を最大限に活用することが不可欠です。そうしなければ、抗弁の期限に間に合わせるために切羽詰まった状態に追い込まれるでしょう。よほどのやむを得ない理由がない限り、UPC手続において期限が厳格であることは広く知られています」。
UPC手続への苦手意識はまだ残っている
世論調査の結果、調査対象者の最優先課題の1つが、UPCの手続と要件について理解を深めることでした。これが意味しているのは、業務開始から16か月が経過したにもかかわらず、多くの企業がUPC手続またはUPC制度の一部の側面に未だに苦手意識を感じているということです。この苦手意識は、特許権者が利用可能な先制攻撃ツールまたは自己防衛ツールにも及んでいると、当事務所のUPC専門家は考えています。
この点を説明するために、当事務所のUPCチームの主要メンバーであり、欧州特許弁理士でもあるマシュー・ハウエルは、次のように指摘しました。
「プロテクティブ・レターは、暫定措置を申請される恐れのある組織にとって重要な自己防衛兵器です。プロテクティブ・レターについては多くの法域で広く理解されていないため、組織はその利用に精通していることが肝心です」。
UPCは数多くの暫定措置を命じることができます。その範囲は、差止命令や被疑侵害品の押収から、被告の銀行口座や資産の凍結まで多岐にわたります。
マシューは次のように付け加えました。
「プロテクティブ・レターは基本的に、推定上の被告が暫定措置を申請される前に防衛策を講じる方法であり、裁判所が何らかの命令を出す前に審理が開かれることを保証する費用効果の高い方法です」。
当事務所のUPCチームはUPCでの訴訟を直に経験しており、9月のウェビナーでは、当事務所の専門家講師陣がこれまでのUPC判決の考察から得た重要な洞察、および自身が経験した同裁判所での手続について説明しました。当事務所の講師陣による講義は、UPCにおける効率の必要性、新規事項の追加、進歩性に加え、UPC訴訟の準備のための実用的助言にまで及んでいました。
このウェビナーの録画は、ここから申し込めば入手可能です。
参考資料
[1] Case load of the Court since start of operation in June 2023 – update end September 2024 | Unified Patent Court
[2] Statistics & Trends Centre | epo.org
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この記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。この記事または統一特許裁判所関連の他の主題に関して助言が必要な場合は、upc@hlk-ip.comまたは担当のHLKアドバイザーまでご連絡ください。