EPOの拡大審判部は今月初めに、欧州特許の新規性の問題に関連する、この重要な事件に対する審決を公表しました。この事件の結論は容易に理解できますが、その理由と潜在的影響は、もっと掘り下げて検討する価値があります。
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概要
EPOの拡大審判部は今月初めに、欧州特許の新規性の問題に関連する、この重要な事件に対する審決を公表しました。とりわけ検討された問題は、商業的に入手可能であるが再現不可能な製品が、新規性を喪失させる開示となり得るかどうかでした。結論から言うと、再現不可能な市販品は先行技術になり得ると判断されました。これは米国の実務家にはよく知られた概念、「販売による新規性の喪失」を欧州において事実上確立するものであり、言い換えれば、販売した後の製品は、たとえリバースエンジニアリングや再現が困難であっても、後日に特許を受けることはできないということです。しかし、重要な違いとして、米国では秘密の販売も含まれるのに対し、欧州では秘密の販売は含まれず、製品が先行技術となるには、販売によりその製品が一般に入手可能になる必要があります。
背景
この問題全体の発端は、1990年代の拡大審判部審決G1/92から派生した解釈の立場にあります。その事件で拡大審判部は、「当業者が通常の一般的知識を用いて製品を分析・再現」できた場合に限り、その製品は「一般に入手可能となる」と述べました。これは長年にわたって一部のEPO審判部(および多くのEPO実務家)により極めて合理的に解釈され、製品は販売されているが、公共領域で入手可能な知識によりリバースエンジニアリングや再現ができない場合、その製品は先行技術ではないと受け取られてきました。
リバースエンジニアリングや再現が極めて困難な製品の例としては、それぞれの性質がその合成方法によって大きく変わる特定のポリマーや触媒などがあり、企業が合成方法を秘密に保持しながら製品を販売し、競合者がその製品を容易に製造できない場合が挙げられます。つまり、このような一部の化学製品は市場に出された場合でも、依然として後日に特許を取得できる可能性があります。一方で、特許制度の利用を人々に喚起し、製品の製造方法に関する情報を公共領域(特許明細書)に提供することで報酬を(特許独占により)得たいと望む人にとっては、この解釈は合理的である上に、特許出願に新製品を開示する際の実施可能性要件も反映しています(つまり、新製品が販売されたと特許出願に述べるだけでは不十分であり、その新製品の合成方法を特許出願に示さなければなりません)。その反面、特定の目的のために容易に製品を入手可能であり、その製品を製造しなくても使用できる場合は、実社会に存在するため「入手可能」であるという現実を無視していると考えることもできます。
G1/23において、特許権者はポリマー物質の特許を取得するために、ポリマーの様々な特性により当該物質を定義づけました。1つの先行技術が、クレーム中の重要な特性の1つを除く全てを備えた市販ポリマーに言及していましたが、このポリマーの製造方法に関して一般に公開された情報はありませんでした。そこで生じた問題は、先行技術として、この市販ポリマーの開示を無視できるかどうかでした。
G1/23の理由
本件では、異議申立人の背理法の主張が最終的に認められました。この主張は次のように行われました。先行技術となるには、製品は「再現可能」でなければならない、即ち他の物質から(人間により)合成できなければならないという前提に立つならば、これは論理的にあらゆる出発物質に適用されなければならない、即ち出発物質自体が他の物質から再現可能でなければならない。しかし、最も基本的な出発物質、化学元素にまで遡れば、他の元素から何らかの元素を合成する方法は(まだ)ないという意味で、「再現可能」ではない。つまり、「原子を自由に構築することは、現在の技術水準、即ち当業者の能力を超えている」。したがって、化学元素およびそれらから作られる全てのものは、先行技術から除外されるべきであるということになり、不合理である。
一方、特許権者は、化学元素や石油のような天然物質など、一部の出発物質が当業者により「再現される」必要はないことは正当化できる上に、それらが依然として「入手可能」であることは認められるが、それらから製造された複雑な物質については、合成方法を知る必要があると主張しました。しかし、審判部は、これが審判部自身の主張を効果的に裏づけると考え、その理由として、一部の物質について合成方法が分からなくても「入手可能」であることが正当化できるのであれば、このことは全ての物質に適用可能でなければならないと述べました。
これに対して特許権者は、市販されているが再現不可能な製品を先行技術として認めれば、企業はそのような製品の製造を簡単に停止でき、入手可能ではなくなるため、困難を引き起こすだろうと強く反論しました。このような状況において、その製品は入手可能なのでしょうか? 審判部はこれを説得力のある意見とは認めず、他の開示はたいてい一時的なものであるが、先行技術とみなされていると述べました。この問題は、インターネットや先の公然実施の開示の場合にも生じる可能性があり、これらは依然として公共領域の一部として認められています。審判部は、市場から消える製品に関して困難が生じた場合、それは証明の問題における困難であって、弁護士の問題であり、当業者の問題ではないと指摘しました。
要するに審判部は、新規性の判断において再現不可能な製品を「一般に入手可能」とみなすことは完全に正当化できるという考えを極めて明確にしました。また、製品に関するあらゆる技術情報(製品カタログなどにおける)も先行技術の一部を構成すると裁定しました。とはいえ審判部は、問題の製品と審査対象の発明の双方に関して、このような製品の進歩性との関連性は状況によって異なると、慎重に指摘しています。「再現不可能であるが一般に入手可能な製品またはそのいずれかの特性が、進歩性の審査においてどのように考慮されるかについては、公式かつ厳格なルールは存在しない」。
潜在的影響
この事件は、既に商業的に販売されている全く同じ製品について、後日に欧州で特許を取得する可能性を全体的に排除しています。しかし、その製品の「改良」の特許取得の可能性については明確に排除しているとは言えません。この判断は、その改良が自明であったかどうか、さらに当業者が通常の一般的知識により当該改良に到達できたかどうかにかかっています。
本著者の立場から言えば、特定の市販品の製造方法に関する情報が公共領域に存在しない場合、当該市販品の化学的改良版に関する特許の進歩性を評価する際に、当業者は当該市販品を出発点として使用できたと主張するのは作為的に感じます。市販品に付加物を単純に追加すること(審判部が示した例えで言えば、コカ・コーラにレモン果汁を追加すること)と、市販品の化学的改良版を製造することは全く異なっており、当業者はその最終製品の合成経路を考案しなければなりません。その場合、進歩性を評価する際に、当業者は合成方法が既知である別の製品を出発点とする方が現実的でしょう。その際、合成経路が自明ではないこともあり、その先行技術製品(合成が既知のもの)が、(合成が未知の先行技術製品と比べて)より多くの特徴において、特許製品と異なる場合もあります。こうなると当業者が製造するには相当な飛躍が必要となるため、合成経路はさほど自明ではありません。再現不可能な市販品の代替品を考案した企業は、合成経路の研究に相当な努力をし、特許明細書において合成経路を公共領域に提供した場合に限り、特許で報われるべきであるというのが唯一正しいように思われます。
他の潜在的影響に関しては、既に販売された製品は「先行技術」の一部を構成するという一般原則は明確ですが、これが事実であると証明するのが難しい場合もあり、とりわけ製品が市場から消えてしまい、そのサンプルがわずかしか/全く入手できない場合は、難しくなります。また、製品の販売の性質という問題もあります。商業的に入手可能な製品について、どの程度までの知識が必要なのでしょうか? 1つの会社が別の会社のために特別に製品を生産しているが、この両社以外には、その製品の存在が知られていないと思われる場合、この製品は「一般に入手可能」でしょうか?
立証責任の問題もあります。異議申立人が再現不可能な市販品に照らして特許製品は自明であると主張する場合、その異議申立人は、当業者がその特許製品を(当該市販品から、または合成が既知である別の製品から)容易に製造できたことを証明する責任を負うべきではないでしょうか?
拡大審判部により残されたもう1つの問題は、「隠れた」特徴、即ち製品の販売時には分析できなかった特徴が、将来の特許の根拠となり得るかどうかです。拡大審判部はG1/23において、化学組成物が公共領域に入るには分析可能でなければならないという1990年代の決定に同意しているように思われます。したがって、特徴評価技術が開発され、後に新しい分析方法により既に販売された化学組成物の「隠れた」特徴が判明した場合、その「隠れた」特徴により定義される同じ製品が特許を取得する余地はあるのでしょうか? 一方では、この隠れた特徴はまさに発見と思われるので、EPOで特許を受けることはできません。さらに原則として、以前に特許が出願されているため、このような後の特許を使って既に販売されている製品の販売を止めることができるというのは、間違っているように思われます。その反面、その隠れた特性は公共領域には存在しておらず、誰もその特性について知り得なかったのだから、何らかの点で有益と思われる隠れた特性を持つ製品の製造方法を考案した人または会社は、その努力を特許により報われるべきであると主張することもできます。そうは言っても、上記に説明したように、恐らくは証明の問題に行き着く可能性が高く、何年も前に販売された製品が特定の隠れた特性を持っていたと証明するのは難しいでしょう。
最後に、この事件は特許出願における十分な開示要件に関して、興味深い問題を提起しています。現在まで、先行技術の実施可能性の原則は、特許出願に開示された発明の十分な開示要件を反映してきました。それを前提として、G1/23のロジックを採用すれば、新しい化学製品の製造方法は述べずに、(先行技術ではなく)出願日の時点で利用可能な供給元だけを示せば、特許出願を提出できることになります。しかし、これでは、新しい化学製品の合成方法を要求する特許の一般原則に反するでしょう。その合成方法こそ、特許権者が特許を取得する取引の一部として公共領域に提供する有益な情報だからです。
要するに、この事件の結論は単純に見えますが、その潜在的影響は遥かに複雑であり、法律の限界を明確にするために、何年か後にこの状況が再検討されるかもしれません。
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この記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。この記事または他の主題に関して助言が必要な場合は、hlk@hlk-ip.comまたは担当のHLKアドバイザーまでご連絡ください。