AIの特許保護-AIは本質的に特許可能か?

AI技術と特許可能な主題との共通部分を審査することは、世界中の特許庁にとって頭の痛い問題です。多くの特許庁、特にEPOとUSPTOは、特許可能な特徴と特許対象から除外される特徴とが混在する、AI関連発明を含む、発明を審査する確立された手順を備えています。適用される基礎となる法律にかかわらず、これらの手順は通常、技術的であるがゆえに特許可能な特徴と、抽象的、純粋に理論的、数学的である、またはビジネスに関連するがゆえに、多くの法域で特許保護から除外される特徴とを区別しようとするものです。

この分野における私たち実務家は、これらの審査手順を特許付与に導く可能性を最大限にし、商業的に価値のある発明の保護を獲得できる方法で、目の前の発明を特徴づけて説明するクレームや議論を構築することに慣れています。しかし、とりわけ機械学習自体の分野における進歩については、その発明に適した汎用性のレベルで有効なクレーム範囲を実現できるようにAI発明を組み立てることが容易にできない場合があります。この分野における数多くの挑戦的な素晴らしい発明の特許適格性と格闘した結果、私たちとしては、AIそれ自体を技術的分野として認めることにより、さらにこの分野におけるイノベーションを本質的に特許保護適格性のあるものとして承認することにより、AI発明に特許保護の入口を広げる商業的、科学的および倫理的論拠があると、敢えて主張したいと思います。

目的に適した特許制度を維持する-AIを特許で保護する商業的論拠

特許保護の目的上、AI発明はしばしばAI応用またはAIコアに分類されます。AI応用は、ML(機械学習)モデルを特定の技術的課題に適用するものであり、一方のAIコアは、機械学習自体の分野におけるイノベーションを指しています。AIコアイノベーションは、広範囲の技術および産業分野への利用可能性を有しており、課題に対するAIソリューションが実行可能かどうかを決定づけるものです。ただし、AIコア発明は基本的に、欧州では単なる数学的方法やコンピュータプログラムとみなされ、米国では抽象的アイディアとみなされているため、特許保護の対象から除外される可能性が最も高いのです。

AIの性質そのもの、および現実世界におけるAIの受容性と有用性は、機械学習アルゴリズムがどのように機能するのか、さらに私たちがそれをどのように理解するのかといった、機械学習アルゴリズム自体の性質を帯びたイノベーションによってのみ解決できる大きな課題を提起しています。このような進歩を特許保護から除外することは、この分野に投資する事業者を不利な立場に追いやる危険があるだけでなく、このようなイノベーションを阻害することにもなるでしょう。

AIはデータに基づいて構築されるため、現在はAIモデルの説明可能性と信頼性に関して多くの研究が行われており、例えば不完全な世界から収集されたデータに基づいてAIモデルを訓練する際の、バイアス(偏り)という極めて現実的な課題への対処方法が求められています。AIのデータへの依存も、そのデータの有効性に関連した課題を提起しています。一例として、工業、輸送または他の部門における壊滅的な障害事象の管理にAIを使用する場合を考えてみましょう。幸いなことに、モデルの訓練に用いるそのような事象のデータはごくわずかですが、それにもかかわらず、AIがそのような事象を予測し軽減してくれるようにするには、私たちはどのような方法でAIイノベーションを活用できるのでしょうか? 全く異なる分野において、データが限られている医療課題の解決策を求めるには、私たちはどのような方法でAIを利用できるのでしょうか? こういった問題は、医療データにおける少数派集団に既存AIモデルが適していることを保証しようとする場合、または明らかにデータが希少な珍しい病気や遺伝子疾患の解決策を求めている場合にも当てはまります。これらの課題に対する回答はおそらく、限定された入手可能なデータの革新的な前処理、合成データの生成、より少ない訓練データセットでより高い正確性を実現するための既存モデルや訓練方法の適応、または他のいくつかのアプローチ全体に存在するでしょう。このような全てのイノベーションは、利用可能性が広く商業的関連性も大きい機械学習自体の分野で生まれる可能性が高いのですが、やはり特許保護を取得する際に大きな障害に直面する可能性も高いのです。

データに付随する課題はさておき、AIはコンピュータにより実施されます。つまりAI運用の基本的資源は、頻繁な処理能力、メモリ、データ転送の帯域幅、およびその方法の基礎となるプロセスを完了するまでの時間です。これら全てを支えるのが、コンピュータシステムが備わっているハードウェアへの電力です。IoTや他の制約デバイスへのAIモデルの実装が増えるにつれて、細かな問題も持ち上がる一方で、AIモデルをより迅速に、より経済的かつエコロジカルに実行する方法を見つけることが、全てのAIシステムの将来にとって重要な課題です。要求される時間、処理、メモリまたは通信資源を軽減しながら、有用な結果を生み出せるイノベーションは、極めて大きな商業的価値があり、AI技術を応用する幅広い分野で潜在的適合性を秘めています。しかし、このようなイノベーションは、特定のハードウェアまたは応用分野に限定しなければ、特許保護適格性があることを証明するために悪戦苦闘することになるのです。

特許保護の可能性が特定の使用例に制限され、結果的に限定された商業的価値しか得られないとなると、出願人は特許制度全体を迂回し、中核的なイノベーションを秘密に保持しようとするか、オープンソースモデルに移行するでしょう。開発者コミュニティにはオープンソースが人気ですが、OpenAIなどの主要な事業者は、オープンソースモデルから離れていく様相であり、予想される規制、とりわけEUのAI法による規制は、この分野における会社が自社のAIシステムの詳細を秘匿しようとする選択肢に制限を設けると思われます。

そのためこの分野における潜在的な出願人は、極めて限定的な特許保護により、自社のイノベーションの商業的範囲の断片だけを保護するか、全く保護しないかという、不幸な選択を迫られるでしょう。AIイノベーションに特許保護の入口を広げることにより、AI研究が活性化されると共に、この分野のイノベーターに報いるという目的に適した特許制度が維持されます。

単なる部分の寄せ集めではない-AIを特許で保護する科学的論拠

欧州特許弁理士である私たちのこの問題に対するアプローチは必然的に、EPCに基づき特許保護から除外される主題にまつわる関連法や実務にいくぶん偏っています(数学的方法やコンピュータプログラム「それ自体」、および技術性の「2つの局面」)。しかし、以下に提示する考慮事項の多くは、他の法域にも当てはまるはずです。

「AIは数学にすぎない」といった表現を理解するには、「AI」が何を意味するのかをちょっと調べればいいでしょう。この主張は、AIが極めて複雑な数学である、あるいは簡単な数学であるが大規模に実施されるという意味かもしれません。しかし、AIシステムを仕事で扱い設計するには数学的理解が不可欠かもしれませんが、AIシステム自体が数学にすぎないと断言するのは、これらのシステムの素晴らしい能力を考えるとあまりにも単純化していると思われます。AIの機能は、数学的概念と言語を用いて記述できますが、多くの科学的、工学的その他のプロセスもそうであって、これらを技術として理解する上で全く問題はありません。AIシステムが完全にデジタル領域で機能するというだけで、技術的ではないと言えるのでしょうか? 純粋に数学的な方法は実際に、MLモデルにより実行可能な方法で文脈や不確実性を導き出し、学習し、推測し、予測し、考慮することが可能とみなせるのでしょうか? 強化学習アルゴリズムは何年にもわたり状態・行動空間の探索と活用の相対的利点のバランスを取ってきましたが、これらの概念は本当に数学的方法にすぎないプロセスに適合するのでしょうか?

私たちは、特許制度の目的上、AIシステムの基礎となる数学的機能を、モデルの基本的機能の個々のコンポーネントに相当する構成ブロックとみなすことを提案します。ただし、ロジック、批判的思考、不確実性、推論および定性的知識を包含する所期の結果をもたらす方法で、これらの構成ブロックを配置することは、独創的スキルを必要とするプロセスであり、数学的方法「それ自体」とみなされるものを遥かに超越した創作物を生み出します。

私たちは、特許制度の目的上、AIシステムの基礎となる数学的機能を、モデルの基本的機能の個々のコンポーネントに相当する構成ブロックとみなすことを提案します。ただし、ロジック、批判的思考、不確実性、推論および定性的知識を包含する所期の結果をもたらす方法で、これらの構成ブロックを配置することは、独創的スキルを必要とするプロセスであり、数学的方法「それ自体」とみなされるものを遥かに超越した創作物を生み出します。

開示を奨励する-AIを特許で保護する倫理的論拠

生成AIモデルがニュースを席巻しており、こういった驚異的なマシンの安全性と合法性に関する議論が続いているため、これらのマシンが実際に機能する方法の詳細を開示または秘匿する双方の理由として挙げられる、安全性について考えてみるのも興味深いでしょう。良い例がOpenAIのGPT-4です。AIコミュニティの多くの人は、潜在的な危害と危険を評価・軽減し、GPT-4の人的および環境的コストを判断するために、GPT-4の設計、実装および訓練に関する詳細を要求しています。しかし、OpenAIは競争優位を維持する必要性を強調すると共に、GPT-4のようなモデルが引き起しかねない潜在的危害を考えると、これらのモデルの影響力があまりにも大きいため公有財産とするのは危険であると示唆しました。OpenAIの主任研究員で共同創設者でもあるイリヤ・スツケヴェルは、「AIをオープンソース化するのは賢明ではないことが数年以内に誰にとっても明白になるはずだ」とまで言っています。

AI技術の途方もない進歩を安全に管理することは、全ての人にとっての関心事です。国際的な規制や標準化が必要な一方で、特許制度によってもたらされる管理された開示および情報公開と商業保護とのバランスは、AI技術に付随する安全性の懸念の一部を軽減する上で重要な役割を担う可能性を秘めています。このような状況において、AIイノベーションに特許保護の入口を広げることは、望ましいと言えるでしょう。

最終的な見解

この短い記事では、AI発明の特許保護に対する包括的なアプローチについて、あまり深く掘り下げることはできません。私たちは、AI発明の特許保護に対する上記のようなアプローチの変更という課題について幻想を抱いているわけではありません。しかし、やがてAIイノベーションが至る所に現れ、世界経済にとって極めて重要な存在となり、私たちの未来を形づくり、科学的イノベーションとして独自のカテゴリーのAIが全ての場所に存在するようになる可能性が非常に高いという私たちの意見は変わりません。それゆえ、AI発明の特許適格性に対するアプローチの根本的な変更という問題は、真剣に検討する価値があります。