均等論:英国vsドイツvs UPC

この記事では、均等論が時間をかけて国内判例法により確立されていった英国とドイツにおける立場と、統一特許裁判所による均等論の扱い方に着目します。

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均等論とは、一部の特許制度において、侵害製品または侵害方法が特許クレームの文言通りの範囲には該当しないものの、クレームされた発明と均等である場合、裁判所は特許侵害の責任を当事者に問うことができるというルールです。

英国

2017年に最高法院は、Actavis UK Ltd v Eli Lilly & Co [2017] UKSC 48事件において、潜在的にかなり広いクレーム範囲を与えることにより、英国の裁判所がEPC第69条に基づき均等物による特許侵害を検討する方法を変更しました。

この事件を要約すると、Actavisのジェネリック医薬品がEliのがん治療特許を侵害していないとする控訴院の判決を不服とした上告審でした。問題の薬剤「ペメトレキセド」は、がん性腫瘍に対する治療効果を有するものの、単独で使用すると重篤な副作用を生じる可能性がありました。Eliの特許は、化合物「ペメトレキセド二ナトリウム」をビタミンB12と一緒に投与すると、これらの副作用を大幅に回避できると明記していました。Actavisは、ビタミンB12と混合したジェネリックのペメトレキセド複合剤の発売を計画していましたが、「ペメトレキセド二ナトリウム」の代わりに「ペメトレキセド二酸、ジトロメタミンまたは二カリウム」を使用する予定だったため、非侵害の宣言を求めました。

均等論に基づく侵害を判断する判決において、3つの問題が提示されました。

1.  特許の関連クレームの文言通りの意味には該当しないにもかかわらず、その変形例は発明と実質的に同じ方法で実質的に同じ結果を達成するか?

2.  優先日の時点で当該特許を読み、その変形例が発明と実質的に同じ結果を達成すると知っている当業者にとって、発明と実質的に同じ方法でそうなることは自明であったか?

3.  特許を読んだ上記の当業者は、特許権者がそれでもなお、当該特許の関連クレームの文言通りの意味に厳密に従うことが当該発明の必須要件であると考えていたと結論づけるか?

文字通りの侵害がない場合に侵害を認めるには、最初の2つの問題に対する答えが「Yes」でなければならず、3つ目の問題に対する答えは「No」でなければなりません。Actavis事件以降、英国の裁判所において均等論の主張が成功するかどうかはまちまちです。

ドイツ

ドイツでは、ドイツ連邦裁判所(最高裁に相当)の「Cutting Blade I」判決(BGH “Schneidmesser I”, 12 March 2002, X ZR 168/00)において、均等侵害を評価する一般的アプローチが定義されており、いわゆるこの「cutting blade問題」が今もドイツにおいて均等論を適用する際の基準となっています。

1.  同等の効果:その変形実施形態は、特許を取得した解決策と同じ技術的効果を達成するか?

2.  想到可能性:その変形実施形態は当業者の知識や考察に基づき自明なものであったため、当業者はその変形解決策が同じ効果をもたらすと認識できたのか?

3.  均等性:当業者はその変形解決策を想到する際に、特許クレームの考察に依拠しており、それゆえ当業者はその変形例を発明と均等の実施形態とみなすことができるか?

その後の数年間、この「cutting blade問題」の解釈とドイツにおける均等の保護範囲の定義が、多くの判例法により明確にされていきました。

連邦裁判所は「Occlusion Device」判決(BGH “Okklusionsvorrichtung”, 10 May 2011, X ZR 16/09)において、クレームの均等範囲には、特許に開示されているがクレームに記載されていない択一的な実施形態は含まれない(「開示されてもクレームされていなければ、排除される」)という原則を導入しています。

しかし、このかなり厳しい均等範囲の制限はその後、いくぶん緩和されました。なぜなら連邦裁判所は「V-shaped guide arrangement」判決(BGH “V-förmige Führungsanordnung”, 23 August 2016, X ZR 76/14)において、特許が特定要素のV字型横断面のかなり狭い定義を示し、出願時の明細書により示唆されていた他の形状を除外しているにもかかわらず、均等侵害に関する評価は、被疑侵害製品の空間的・物理的設計よりも、特許の技術的教示の文脈における機能の方に大きく依拠したと述べているためです。

上記の英国Actavis UK Ltd v Eli Lilly & Co [2017] UKSC 48判決と並行するドイツの訴訟手続(BGH “Pemetrexed”, 14 June 2016, X ZR 29/15)において、どのような場合に均等侵害の評価が「Okklusionsvorrichtung」事件で定義されたアプローチから多少なりとも逸脱できるかについて、追加の選択肢が導入されました。この「Pemetrexed」判決は、その頭註において、明細書が特定の技術的成果を達成する複数の可能性を開示しているが、その1つだけが特許クレームに含まれている場合、原則として、均等手段による侵害は存在しないことを確認しています。しかし、この「Pemetrexed」判決は続けて、明示的に開示されてはいないが、特許の開示に基づき簡単に「想到可能な」択一的な解決策は均等論による特許保護から除外されないと明記しています。

最初の「cutting blade問題」に従う「同等の効果」の評価は、連邦裁判所の「crane arm」判決(BGH “Kranarm”, 17 November 2020, X ZR 132/18)で検討されました。この「crane arm」事件において、係争対象の実施形態のホースは、特許クレームが要求するように、クレーンアーム側にある回転継手の2つの自在軸受の間を通っていませんでした。代わりに、当該ホースは2つの自在軸受の間にある別部材を迂回していました。当該ホースの保護はクレームされた装置と同じパイプ部分において達成されていないため、この事件において同等の効果は達成されないと、連邦裁判所は裁定しました。

要するに、ドイツには長年にわたり確立された均等論に関する判例法があり、上記の「cutting blade問題」に「Yes」と答えられる場合、択一的な解決策は通常、特許の均等範囲を侵害していると認定されるのです。

Plant-e v Arkyne – UPCハーグ地方部

2024年の終盤に、ハーグ地方部はUPCで最初の均等論に関する判決を下しました。UPCは、当該特許が有効であり、均等論に基づき侵害されたと認定し、当該特許が有効なUPC管轄領域、即ちオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ、フランスおよびイタリアにおける終局的差止命令を認めました。

判決文はここで読めます:Plant-e v Arkyne

背景

Plant-eの特許は、生きている植物を用いて光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置(クレーム1‐10)と方法(クレーム11‐16)に関しています。

Arkyneの製品は「生物学的」電池であり、土壌中の原料を酸化する微生物により電流を生成できると宣伝されており、Biooパネルと呼ばれています。また、Biooパネルの最上部には、土壌、植物と植物の根が入った区画があります。土壌中の有機物の化学エネルギーは、光合成を通して植物により生成された後、電気エネルギーに変換されます。

Plant-eは、Biooの製品が特許のクレーム11‐16を侵害していると申し立てました。

ハーグ地方部は、当該特許は有効であり、文字通りではなく均等論により侵害されていると認定しました。

Biooパネルは、陽極室における植物と植物の根の配置以外、クレームの全ての特徴を満たしていたため、係争特許の文字通りの侵害は存在しませんでした。しかし、均等論により当該特許の保護範囲を分析することにより、UPCで初めて侵害が認定されました。

均等論

以下の4つの問題に対する答えが「Yes」である場合、変形例はクレームに特定された要素と均等であると、UPCは述べました。

1.  技術的同等性:変形例は特許発明が解決する問題と(本質的に)同じ問題を解決し、この文脈において(本質的に)同じ機能を果たすか?

2.  クレームの保護を均等物にまで拡大することは、特許権者の技術への貢献を考慮して、特許権者の公正な保護と釣り合っているか? さらに当業者にとって、特許公報に基づき、(侵害の時点で)その均等の要素を応用する方法は自明であるか?

3.  第三者にとっての合理的な法的確実性:当業者は特許に基づき、発明の範囲がクレームの文言通りの範囲より広いと理解するか?

4.  先行技術に照らして、被疑侵害製品は新規かつ進歩的か?

この事件において、上記の問題に対する答えは全て「Yes」でした。

影響

これはハーグ地方部が出した第一審判決であり、既にオランダの国内裁判所で示された先例を適用・採用しているようです。

UPCは複数の欧州法域の判例法から指針を取り入れようとしていますが、様々な欧州の均等論の判断基準の間で、どのように調和が図られていくかは、まだ分かりません。上記で見たように、英国とドイツの判断基準は異なっています。

UPCの控訴裁判所がこの判決を支持するかどうかは、予断を許さない状況です。

この記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。この記事または他の主題に関して助言が必要な場合は、hlk@hlk-ip.comまたは担当のHLKアドバイザーまでご連絡ください。