統一特許裁判所(UPC)判決の執行

UPCの判決と、ここで論じられたような命令は、複数の国で執行することが可能です。単一特許に関する事件では、UPCの現在の管轄領域を構成する17か国全ての参加国において、判決と命令を執行できます。従来の(非単一)欧州特許に関する事件では、有効化が行われた参加国(最大17参加国)において、判決と命令を執行できます。執行プロセスの様々な重要な側面について、以下に説明していきましょう。

執行手続に適用される法律は?

一般的には、国内法です。UPC協定(UPCA)の第82条(3)項は、UPCAおよび統一特許裁判所規程に影響を及ぼすことなく、「執行手続は、

執行が行われる参加国の法律に従う」と定めています。したがって、UPCAにより直接否定されない限り、国内法が執行に適用されます。

判決の執行に担保の提供が要求されるのか?

状況によっては、要求されます。UPCA第82条(2)項は、「発生したあらゆる損害を補償するため、担保の提供または同等の保証を条件として」執行される場合もあると定めています。特に当てはまるのが、執行に差止命令が含まれている場合です。UPCが担保を要求できるかどうかについて厳密な詳細は、まだ決まっていません。担保が要求される場合は、保証金、銀行保証状または「他の方法」(UPC手続規則(RoP)の規則352(1)を参照)により提供することが可能です。また、判決または命令が担保の提供を要求する場合は、担保が提供され、判決または命令が送達されるまで、その判決または命令を執行することはできません。一部の命令については、継続的な担保の提供を条件として(命令が後に取り消された場合に補償するため)、命令の継続が可能になります。

自分に不利な判決/命令が下された場合にできることは?

控訴することができます。一般的に、控訴には停止効果がないため、しばらくの間は判決または命令に従う必要があるでしょう。また、控訴の停止効果を要求することも可能であり(UPCA第74条を参照)、その場合、控訴裁判所は停止効果を適用すべきかどうかを判断します。ただし、UPCA第74条(2)項に定めるように、取消を求める訴訟または反訴に関する判決、および特定の行政訴訟に関する判決を不服とする控訴は、例外です。これらの控訴は自動的に停止効果を持っています。

欠席判決の場合はどうなるのか?

欠席判決が出されるのは、一方の訴訟当事者が要求された際に文書を提出しない、または口頭審理に出頭しない場合です。欠席判決が通知されてから1か月以内に、当該当事者はその判決の無効を求める異議を申し立てることができます。控訴の場合と同様、異議には自動的な停止効果はありませんが、UPCは異議に対する判断を下すまで執行の停止を許可することができます。欠席判決については、UPCAの付属書Iである統一特許裁判所規程の第37条で取り上げられています。

判決/命令に従わないとどうなるのか?

判決/命令に従わない場合、その判決または命令に制裁金の支払に関する規定が含まれていれば、制裁金を課せられるでしょう。紛争の相手方当事者の要求に応じて制裁金が課せられる場合もありますが、裁判所も職権により制裁金を課すことができます。UPCA第82条(4)項には、制裁金は「執行すべき命令の重要性に比例し、損害賠償または担保を請求する訴訟当事者の権利には影響を及ぼさない」と述べられています。制裁金に関する裁判所の方針はまだ決まっていないため、例えば1日単位や侵害品の売上に基づく制裁金など、一定の柔軟性が裁判所に与えられると思われます。

判決/命令を不服とした控訴審で勝訴した場合、または命令が下された事件で最終的に自分に有利な判決を受けた場合、賠償を請求できるか?

はい。いくつかの暫定措置として、UPCAにおける特定の条項が賠償の裁定について定めており、UPCA第60条(9)項、第61条(2)項および第62条(5)項は、それぞれsaisie(証拠保全)命令、資産凍結命令および暫定的差止命令の結果として被った損害に対する賠償の裁定について定めています。それ以外では、RoPの規則354(2)が、判決または命令の執行により生じた被害について、賠償を裁定できると規定しています。さらに注意すべき点として、特許侵害の認定に従って判決または命令が出され、訴訟終了後に特許の補正または取消が生じた場合、その判決または命令の対象となった当事者は、当該判決または命令にはもはや強制力がない旨の決定を要求できます。

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