注目を集めたAI著作権事件において、米国の裁判所は、著作権で保護される法的要約をAIの訓練に用いることは侵害であると判示しました。これにより、AIが学習する方法、何が公正利用とみなされるのか、さらにこの事件はリーガルテックの将来にどのような意味を持つのかについて、大きな疑問が持ち上がっています。
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最初の重要なAI著作権事件の一つが、米国で裁定されました。そして喜ばしいことに、これは判例法に関する事件です。
結論から述べますと、この事件は、被告による訓練データの作成時における著作権資料の特定の使用は、実際に著作権侵害だったということです。たとえそうであっても、この記事の続きを読んで事件の事実を理解し、裁判所で係属中の他の事件との関連性を検討することには価値があります。
この事件の主役はThomson Reutersであり、同社の資産「Westlaw」は、世界中の弁護士にとって、判決文の要点をまとめた判決要旨が付随する、極めて有用な訴訟事件の保存記録として知られています。米国では、このような判決要旨は弁護士資格を持つ編集者によって書かれています。
2020年に提起された事件において、Thomson Reutersは、ROSS Intelligence(Ross)が彼らのライセンスを使用してWestlawにアクセスするよう第三者を誘導していた上に、コピーされたコンテンツを用いて競合製品を制作していたと、申し立てました。
Rossは2015年に創業した比較的新しいリーガルリサーチ会社であり、他の取扱分野に手を広げる前は、破産とIP判例法(何とも皮肉なことに)を専門としていました。Rossは競合者であることを理由にWestlawライセンスを拒否された後、第三者であるLegalEase Solutions, LLCを利用して、彼らに代わりWestlawにアクセスしていたと、Thomson Reutersは申し立てています。LegalEaseは2008年からWestlawの登録者でしたが、Thomson Reuters の主張によれば、2017年に利用パターンが変わり、ひと月の取引が6,000から約236,000にまで膨れ上がりました。おまけに挙動がおかしくなり、好奇心旺盛な法学生というよりも、むしろロボット(Westlawの利用規約に直接違反する)のように思えると、Thomson Reutersは考えていました。
その一方でRossは、AI検索ツールを開発していました。そのためには、法律問題の正解と不正解からなる訓練データが必要になります。このような訓練データは関係者から「バルクメモ」と呼ばれていました。これらのバルクメモは、Westlawの判決要旨に基づいて弁護士たちが作成していたようです。これは単純な「切り取って貼り付ける」仕事ではありません。むしろ裁判官により作成されたサンプル(この点に関する実際の証拠は隠されていた)で実証されたように、事件から導き出された法的結論を述べていると思われる判決要旨が、訓練データの問題として書き換えられていました。
注目に値する判決において、裁判官はまず、判決要旨は著作権保護を受ける権利があると論じました。著作権保護の対象ではない主題に基づくものであっても、たとえ「内容はさほど創造的ではない」としても、判決要旨は編集上の表現により創作性の基準を満たしていました。次に、専門家の証言に基づき、基礎となる事件ではなく、その判決要旨がバルクメモを生み出したと判断されました。事実、判決要旨の表現にほぼ近いバルクメモが数多く見つかりました。
もちろんRossは、AI著作権事件でよく引用される、公正利用の抗弁を提出しています。その立証責任はRossにありましたが、立証できませんでした。彼らは競合する商品を制作しようとしていたため、これにより彼らの使用はセーフハーバーの範囲外とみなされたのです。判決要旨やバルクメモをユーザーに見せていないにもかかわらず、「Rossは判決要旨を利用して、競合するリーガルリサーチ・ツールを開発する手間を省いた」と判示されました。
それゆえ、この事件における侵害の主要原因は、訓練データの作成であったと思われます。
現時点で裁判所に係属中のいずれかのAI事件において、この手続と明確に類似する例はありません。にもかかわらず、著作権と生成AIを巡る争点の大まかな要約を一つ提示するならば、著作権の侵害は、AIに入る過程で(即ち、訓練データの使用が侵害を生じる)、AIから出る過程で(訓練データの少なくとも一部と不快なほど類似する出力を生成することにより)、またはその両方により生じるか、どちらによっても生じないと言えるでしょう。この事件は、少なくともAIに入る過程で侵害が生じ得るという主張に、一定の説得力を与えています。
この判決は、AI著作権事件における責任に影響を及ぼす多くの争点に触れていますが、生成AIに関する問題は検討していません。このような問題は、生成AIの分野において係属中のいずれかの事件において検討されることになります。
この記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。この記事または他の主題に関して助言が必要な場合は、hlk@hlk-ip.comまたは担当のHLKアドバイザーまでご連絡ください。