2022 年には、ステファン・シュルテスとマグナス・ジョンストンは、パラメータにより定義された発明のクレームを欧州特許庁(EPO)が審査する方法について、詳細な考察を行いました。その考察において、化学および材料関連の発明は、物理的構造や実験的に測定可能な特性によるパラメータ定義に適していることが多いものの、そのような定義が開示の明瞭性と十分性に関して問題を引き起こすおそれがあると指摘されています。EPOの審査官によっては、パラメータを用いることで新規性の欠如をごまかそうとしていると受け取られる可能性があるようです。
EPO 技術審判部による決定(T 0555/18)は、クレームの唯一の顕著な特徴が特殊なパラメータである場合に、進歩性をどのように評価すべきかについて検討しています。
この事件において、多層構造の熱収縮フィルムに関連したクレームは、とりわけ特定の時間にわたり特定の温度と湿度の条件下で測定される、フーリエ変換赤外(FTIR)分光透過吸光度比により定義されていました。この特許の説明によれば、1.65以下の吸光度比は、高い強度をもたらす高いポリアミド含有量と、高い透明度をもたらす低い結晶化度を示すということでした。
審判請求人である異議申立人は、FTIR透過吸光度比が特殊なパラメータであり、この分野で一般的に用いられるものではないと主張し、審判部も同意しました。
EPOの審査ガイドラインに従い、2種類の特殊なパラメータが存在します。
(ii)その発明分野においてこれまで測定されたことのない製品/プロセスの特性を測定する特殊なパラメータ
上記(i)に該当するパラメータは、明瞭性の欠如を理由に一応は拒絶可能とみなされます。なぜならその特殊なパラメータを当該技術分野における一般に認められたパラメータに明確に変換できない場合、またはその特殊なパラメータを測定する上で入手不可能な装置を使用しなければならない場合、先行技術との有意な比較ができないためです。
上記(ii)に該当するパラメータが許容されるのは、当業者が困難を伴わずに提示された試験を実行でき、それにより当該パラメータの正確な意味を確定でき、先行技術との有意な比較を行えることが出願から明白である場合です。ただし、特殊なパラメータが先行技術と区別される真正かつ顕著な特徴であることを立証する責任は、出願人にあります。
審判部は審決T 0555/18において、FTIR透過吸光度比が引例D3と区別される唯一の顕著な特徴であると認めると共に、(a)このパラメータの差異が実際に光学特性を改善するのかどうか、さらに(b)クレームされた範囲における実施が、特許権者の主張通りに、D3の範囲内の開示の組合せに基づいて自明ではないのかどうかについて、判断しなければならないと述べました。
問題(b)に関しては、唯一の顕著な特徴が特殊なパラメータである場合、このようなパラメータは当然ながら関連先行技術にほとんど記載がないという事実により、自明性の評価が曖昧になるおそれがある、と審判部は指摘しました。つまりクレームされたパラメータと、先行技術におけるより一般的なパラメータに基づく推定値との間接比較により、不確実な結論につながるおそれがあるということです。ここで、得られた推定値が発明を自明なものとする上で十分かどうかについて、誰が立証責任を負うべきか、という問題が生じました。
進歩性を評価する際は、新規性の文脈における特殊なパラメータに関する判例法に従うべきであるため、疑わしい場合、立証責任は特許権者が負わなければならないと、審判部は裁定しました。特殊なパラメータにより発明を定義するという決定により生まれる不確実性から恩恵を受けることは、一方の当事者にとって不公平であるため、このアプローチは正当化されると、審判部は判断しました。
審判部はこの事件において、引例D3の関連する開示を組み合わせることで得られるフィルムが、クレームの範囲外のFTIR比を示すことを実証する証拠が提出されなかったため、この立証責任は特許権者により果たされなかったと裁定しました。それゆえこのクレームは、進歩性がないと認定されています。
この審決は、特殊なパラメータにより発明を定義する際に遭遇する可能性のある問題を浮き彫りにしています。当事務所の以前の記事で指摘したように、このような性質の出願明細書を作成する際は、細心の注意を払わなければなりませんし、発明を実証する証拠を提出する特許権者の義務は、特許付与後であっても継続していきます。