この記事では、エネルギー貯蔵の未来を切り拓こうとする最先端の電池技術について、マリー=アレクシスが解説します。
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ノーベル賞を受賞した技術
リチウムイオン電池は、1990年代初頭に最初に商品化されており、その高いエネルギー密度と充電可能性ゆえに、ポータブル電子機器にとって最適な選択肢でした。リチウムイオン電池技術の創始者であるジョン・B・グッドイナフ、M・スタンリー・ウィッティンガムと吉野彰は、ワイヤレス時代の先導役として認められ、2019年にノーベル化学賞を受賞しています。
リチウムイオン電池が今の時代を形づくったと言っても過言ではありませんが、新たに台頭してきた技術は、より効率的なだけでなく、より持続可能なエネルギー貯蔵の未来を垣間見せてくれます。
深刻化する気候変動の課題に対処するため、世界が再生可能エネルギーと電気自動車(EV)へ舵を切っている中、電池技術は急速に進化しつつあります。このような移行が不可欠な理由は、太陽光や風力といった再生可能エネルギー源の断続的な性質が、安定した信頼できる電力供給を保証する高度なエネルギー貯蔵ソリューションを必要としているためです。
リチウムを超える:より安全でスマートな電池技術を目指して
固体電池
液体電解質を用いる従来のリチウムイオン電池とは異なり、固体電池(SSB)は固体電解質を利用します。つまり、SSBは同じスペースにより多くのエネルギーを貯蔵できるため、EV走行距離を大幅に伸ばすと期待されています。可燃性の液体電解質がないので、火災や爆発のリスクが減少します。また、材料劣化の低減により電池の寿命が延び、電子機器廃棄物を最小限に抑えることができます。Nature Energy誌に掲載された研究は、SSBが電池製造に伴う温室効果ガス排出量を有意に削減する可能性を示唆しています。トヨタ、QuantumScapeやSolid Powerといった会社は、SSBの実用化に向けて積極的に研究を進めていますが、幅広い普及には、製造コストやスケーラビリティといった課題が残されています。
ナトリウムイオン電池
ナトリウムイオン(Na-ion)電池は、リチウムイオン技術に代わる費用対効果の高い持続可能な選択肢として注目を集めています。ナトリウムはリチウムよりも遥かに豊富に存在し、より安価に抽出できるため、大規模なエネルギー貯蔵用途にとって魅力的な選択肢です。さらにNa-ion電池は極寒の状況でも効率的に機能するため、特に気候の厳しい地域での使用に適しています。Sustainable Energy & Fuels誌に掲載された研究と米国エネルギー省による報告は、リチウムイオン電池と比べて、ナトリウムイオン電池が電池製造の環境フットプリントを大幅に低減する可能性があると強調しています。CATLやFaradionといった企業が、ナトリウムイオン技術の実用化に向けて研究を進めており、電力網蓄電や低コストEVへの応用が期待されています。
リチウム硫黄電池
リチウム硫黄(Li-S)電池は、従来のリチウムイオン電池に代わるもう一つの有望な選択肢であり、豊富に存在する費用対効果の高い硫黄をカソード材料として用いるという利点もあります。このような電池は、理論的にはリチウムイオン電池の5倍以上のエネルギーを蓄えることが可能なため、エネルギー密度の高い用途にとって非常に魅力的です。さらに硫黄を用いることで、コバルトやニッケルなど希少金属への依存も減らせます。ケンブリッジ大学における最近の研究は、Li-S電池の性能とスケーラビリティの向上に焦点を絞っています。その目標は、とりわけ動力飛行などの重量が鍵を握る用途において、このイノベーションを商業利用に近づけることです。これらの利点にもかかわらず、Li-S電池は急速な劣化や限られた充電サイクルといった課題に直面しています。研究者たちは性能と寿命を改善するために、硫黄カソードの安定化の研究に励んでいます。
水素燃料電池
従来の電池ではありませんが、水素燃料電池は新しいタイプのエネルギー貯蔵ソリューションです。水素燃料電池は化学反応を通して水素を電気に変換し、高いエネルギー効率をもたらすため、EVの走行距離を伸ばすことができます。水素燃料電池の唯一の副産物が水であるため、ゼロエミッションエネルギー源として、よりクリーンな環境に貢献します。また、その多用途性ゆえに、自動車や定置型電源に加え、航空宇宙用途にも使用可能です。水素燃料電池の主な課題として、インフラ整備や水素製造効率が挙げられますが、これらの問題に対処するための研究と投資が進められています。
電池技術に関する特許出願の波
世界中の研究者や企業が、エネルギー貯蔵に革命をもたらし、再生可能エネルギーの統合を支え、環境の持続可能性に貢献する有望な新しい電池技術を開発しているため、これらのイノベーションを特許で戦略的に保護しようとする動きが増しています。電池に関する国際特許分類(IPC)クラスH01Mにおける特許公開件数は、2014年の約68,000から2023年の160,000超へと、10年間で倍増しました。強固な特許ポートフォリオは、企業が競争優位性を確保し、投資を誘致する上で役に立ちます。電池技術に関する特許と特許出願の最大のポートフォリオを有するのはLGとSamsungですが、この分野における企業の数は増え続けています。この市場の競争と商業価値が高まるにつれて、知的財産保護の重要性はより一層増していくでしょう。
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